乳癌は腋窩リンパ節に転移しやすいため、原発巣だけでなく腋窩の治療もおこなうことが標準的です。腋窩に転移があるかどうかを術前に調べる信頼できる検査法はなく、実際に取ってみないと転移があるかどうかわかりません。腋窩リンパ節転移数は乳癌が再発するかどうかの一番の指標となることが経験的にわかっているため、腋窩郭清により術後の補助治療〔抗癌剤や内分泌治療〕をおこなうかどうかの判断基準も得ることができます。また腋窩リンパ節再発を防ぎ、生存率を上昇させる可能性も指摘されています(Ann.surg.oncol.109-116,1999)。
しかし、検診などにより早期の乳癌が増え、腋窩リンパ節転移の無い症例が増えたことと、補助療法の適応がひろがり、腋窩リンパ節転移数に関わりなく補助療法が行なわれる例が増えたことにより、近年腋窩手術の必要性について議論がなされるようになってきました。上肢浮腫などの乳癌手術の副作用の大部分は、腋窩手術が原因だからです。腋窩郭清がおこなわれる場合には、レベル2(小胸筋内縁)までのリンパ節を切除することが標準です。それ以上の郭清は副作用が増えるため薦められません。腋窩サンプリングといい、4個程度のリンパ節だけを取る方法がスコットランド等でおこなわれています。手術副作用は減少しますが、サンプリングしたリンパ節が転移陽性だった場合に、残りのリンパ領域の治療法に問題があるため標準的ではありません。
最近最も期待されているのがセンチネルリンパ節生検という方法です。色素や放射性物質を原発巣に注入することで、リンパ管から最初に到達するリンパ節をセンチネルリンパ節として同定し、それに転移が無い場合には残りのリンパ節にも転移が無いと判断する方法です。センチネルリンパ節が腋窩でなく内胸領域にある場合(約5%)の問題、センチネルリンパ節の転移を詳しく調べる意義、センチネルリンパ節が転移陽性だった場合の腋窩治療をどうするかなどの問題がありますが、今の所、腋窩郭清に代わりうるとするデータが多数です。ただし、偽陰性〔センチネルリンパ節転移陰性で、他のリンパに転移がある〕が5−10%近くあり、安全性はまだ確認されていません。諸外国で大規模臨床試験が進行中であり、その結果安全性が証明されれば標準治療となる可能性が高いと考えられています。
腋窩照射も臨床的に腋窩リンパ節が無いと診断される例では有効です。腋窩照射による腋窩リンパ節転移再発率は1%程度と報告されており、腋窩郭清と同等とされます。上肢浮腫などの副作用は腋窩郭清の半分程度という報告もあります。ただし、腋窩照射では、腋窩リンパ節転移の状況がわからないという問題があります。また、臨床的腋窩リンパ節転移陽性例では腋窩郭清よりも成績が悪く、転移リンパ節をコントロールする力は手術より劣ります。最近のアンケート調査によると、手術により腋窩転移の情報が得られる場合には、腋窩郭清による副作用を許容する患者が多いことが報告されています(J.Natl Cancer Inst 2000:1681-7)。
まとめると、臨床的腋窩リンパ転移陽性例では腋窩郭清が標準治療です。臨床的腋窩転移陰性例で補助治療の適応が腋窩転移の情報により決まる場合には腋窩郭清が標準ですが、実験的にセンチネルリンパ節生検がおこなわれており、今の所、有用だとされています。組織型や腫瘤径から腋窩リンパ転移の可能性が低いと考えられ、補助治療の適応が腋窩転移の情報に関係ない場合には、腋窩照射、場合により腋窩無治療も選択肢になります。郭清により情報を得ることと手術合併症を避けることのどちらを重視するかという患者さん個人の考え方も含め、安全とされる範囲で腋窩治療法が選択されるべきです。