乳癌術後のQ and A
3-1初回治療後の再発について教えて下さい
3-2再発を予防することはできますか?
3-3再発の早期発見のためには何をすべきですか?
3-4遠隔再発後はどうしたらよいですか?
3-5再発後のホルモン療法について教えて下さい
3-6再発後の抗癌剤治療について教えて下さい
3-7局所再発について教えて下さい
3-8代替療法(民間療法)はどうですか?
3-9乳がんは子供に遺伝しますか?
3-10抗がん剤,ホルモン療法を受けたことによる将来の問題は?
3-11手術の後遺症(腕のしびれ感、むくみなど)は軽減される見込はありますか?
3-12将来の妊娠についての不安は?
3-13治療終了後の定期検査(外来受診)のスケジュールについて教えて下さい
3-1初回治療後の再発について教えて下さい
再発には局所再発と遠隔再発の2つがあります.乳房やその近傍にがんが遺残して,治療後に再増殖してきたのが局所再発で,骨や肝臓,肺などの遠く離れた場所に転移したがんが増殖して顕在化してきたものが遠隔再発です.初回治療後にこれらの事態が起こるかどうかはわかりませんが,再発の可能性(リスク)をある程度予測することはできます.治療後20年ぐらいまでは再発がみられるため,乳癌は20年が経過して初めて治癒したと考えられます.しかし一方で再発の約半分は3年以内の比較的早期に起こりますから,治療後3年たてば危険の半分はなくなったと考えることができます.
3-2再発を予防することはできますか?
手術後に行われる抗がん剤,ホルモン療法により再発率が相対的に約25%(絶対値で10%前後)低下することが知られています.また放射線により局所再発率が1/4に減少することも知られています.しかしこれら以外に効果が確認された方法は現在ありません.免疫療法,遺伝子治療,代替療法のいづれにしてもある程度の理論的裏付け,実験室レベルでのデ−タはあっても,はっきりとした臨床デ−タ(患者さんの生存率向上のデ−タ)はありません.
3-3再発の早期発見のためには何をすべきですか?
何等かの症状がでた場合,例えば強い腰痛,背中の痛み,息切れ,強い頭痛などがでた場合は早急に検査が必要です.また乳房,胸壁,腋,首のつけ根にしこりができた場合,局所再発が疑われるため検査が必要です.しかしながら症状のない遠隔再発の早期治療は症状がでてからの治療に比べ効果にほとんど差はないと考えられています.このため症状のない乳がん患者さんへの定期的な検査(遠隔再発の発見を目的とした)は勧められないというのが現在の国際的な標準意見です(1997年アメリカ臨床腫瘍学会ガイドラインより).月1回の局所再発の自己チェック,定期的な病院での局所再発のチェックは必要ですが,それ以外は症状がでたら病院を受診して検査を受けるというのがもっとも合理的な方法と考えられています.
3-4遠隔再発後はどうしたらよいですか?
症状がない場合,生命の危険がない場合はホルモン療法から試みる場合が一般的です.呼吸が苦しいなどの差し迫った危険がある場合は抗がん剤治療から行うのが原則的です.骨や脳に転移がある場合はその部位のコントロ−ルのため放射線照射が優先されます.
3-5再発後のホルモン療法について教えて下さい
現在4種類の薬剤が一般的に用いられています.ひとつの薬剤を試してみて3ヶ月程度効果を見てみて,無効なら薬剤を変更する方法が一般的です.生命に直接危険が差し迫るような遠隔再発の場合は抗がん剤治療がまず選択され、そうでない場合はホルモン療法がまず試されます。毒性が少なく,効果期間が比較的長いことから乳癌の再発治療として最も重要です.
3-6再発後の抗癌剤治療について教えて下さい
多剤併用化学療法(CMF療法,CEF療法など)または単剤化学療法(エピルビシン、タキソール、タキソテール,経口抗がん剤など)が行われます.遠隔再発の治療は延命が主たる目的ではなく,症状の緩和が主目的となります。そして副作用を減らして症状を緩和し、日常生活が快適におくれることをめざします.用量を強化した多剤併用療法,大量化学療法は毒性と効果の点で,現時点では否定的です.
3-7局所再発について教えて下さい
前回治療の取残しの場合と全身再発の一症状の場合があります.取残しの場合は初回治療と同じ扱いになり,手術,放射線治療が行われます.乳房温存療法の乳房内再発は多くの場合乳房切除が選択されますが,再度温存治療が選択されることもあります.全身再発の一症状の場合は,他の遠隔転移が今後の経過を決めることになり,遠隔再発と同じ扱いになります.
3-8代替療法(民間療法)はどうですか?
個人的には決してお薦めはしませんが,患者さんの約50%の方は何等かの形でこうした代替療法(非証明医療)を現在行っているか、また過去に行った経験があるだろうと考えています.がんと診断された場合、自分でこうした治療法の情報をさがす方もいますが、むしろ少数で多くの場合、話を聞きつけた友人や、親戚に勧められるようです。代替療法は必ずしも安全とはいえないため,治療の概要だけは主治医に伝えておいた方が無難と思います.(特に病院で現在治療中の方は相互作用の問題があるため報告しておいた方が望ましいと思います).臨床医学は科学のなかでも未熟な領域のため代替療法と通常の医療との垣根が明瞭ではありません.このため断定的に代替療法を否定できないかわりに,デ−タ(エビデンス)に基づいた方法でないことは理解しておいて下さい.アメリカ国立衛生研究所(NIH)も多くの患者さんが現実に利用している事態を踏まえて実態調査に乗り出しています。また最近代替療法を利用した人と、しなかった人とで生存率に差はなかったという臨床研究(prospective study)も報告されています。(J. Clin.Oncol. 1998年1月号)このような民間療法によって人生は長くならなくても、生活の質が向上する可能性(主としてプラセボ効果)は否定できません。そして民間療法を希望する人は、正統的治療を否定するというより自分の意志でより病気にかかわっていきたいという積極性や自主性のあらわれから利用する場合が多いのも事実です。そして病院側がこうした治療を感情的に否定することが患者さんを病院から脱落させ被害を大きくするという現実的判断から患者さんがこのような治療を受けることを否定はしません。
代替療法(非証明医療)の問題点を要約すると以下の3点にまとまると思います。
■代替療法は必ずしも安全ではなく、また副作用もあること。またこうした治療が本来無害だとしても、使用法の管理に問題があれば危害を与えうること。
■効果は確かに存在します。しかしそれはプラセボ効果であり、医学的な訓練を十分受けていないものがプラセボ療法を施せば、正しい判断は下せないし、患者さんは適切な治療(効果の証明された治療)を受けられない危険がありうること。
■藁にもすがりたい患者心理につけ込んで、ずるずると多額の費用を要求する悪徳業者、悪徳医師がこの業界に多いことも、頭に入れておく必要があります。
3-9乳がんは子供に遺伝しますか?
40才以下で乳がんになった場合,娘や妹の乳がんの危険は普通の人の2-3倍程度になります.それ以降の場合はそれほど遺伝傾向は強くありません.
3-10抗がん剤,ホルモン療法を受けたことによる将来の問題は?
CMF療法後の将来の問題はほぼないと(少なくとも20年間は)確認されています.アドリアマイシンには心臓の毒性,白血病のリスクが報告されています.(重篤な合併症の発生率は0.5%程度と報告されています)。ホルモン剤(タモキシフェン)の場合は子宮体がんの明らかな増加が確認されています.
3-11手術の後遺症(腕のしびれ感、むくみなど)は軽減される見込はありますか?
痛みやしびれ感は手術直後から数ヵ月間がピークで、その後2-3年程度までは自然に症状の改善が期待されます。しかしその後はあまり大きな改善は期待できず、症状が固定されます.腕のむくみはある程度可逆的なため早期の対応が重要で、何ヶ月もむくんだ状態が続くと不可逆になります。このため症状が出た時点で抗生物質、マッサージ、スリーブの着用などの対応をします。
★参考資料 腋窩郭清(リンパ節切除手術)を受けた患者さんへ
−リンパ浮腫の予防と管理
腋窩にあるリンパ節は、がんの転移があるかどうか調べるため、また再発防止のために切除されます。
リンパ節は体中に存在しており、体内の体液、タンパク、細菌などに対してフィルターの働きをしています。リンパ節切除手術の後、時々このフィルター機能が果たせなくなり、手術した側の腕に体液が貯留します。このような原因で腕がむくむという現象は、この手術をうけた患者さん全体の5〜10%に最終的に認められます。しかしながらどの人がむくむか予測することはできません。以下のガイドラインは、リンパ浮腫の予防に有効と考えられています。このガイドラインをよく理解して、あなたの日々のライフスタイルに取り入れて下さい。
リンパ浮腫予防ガイドライン
1、患側の皮膚を清潔に保ちましょう。腕を乾かすときは強くこすらず、やさしく拭きましょう。
2、患側の腕で採血、注射、点滴をすることは避けて下さい。
3、患側の手や腕を傷つける可能性のあるときは手袋を着用して下さい。
4、患側の腕の日焼けを避けて下さい。虫などに刺されるのを避けるため、状況によって虫除けの薬を用いてください。
5、爪を極端に短くするのは避けてください。爪から雑菌が入るのを避けるためです。
6、2〜3ヶ月間は激しい運動、肩関節をフルに使った運動は避けてください。
2〜3ヶ月たてば元と同じように運動機能を回復できると考えてください
水泳、ゴルフ、テニスなども以前と同じようにできるはずです。
□もし患側の腕、手を切ったり、虫に刺されたり、何らかのけがをした時は、そこを石鹸と水で洗い、消毒し、滅菌ガーゼ、絆創膏で覆って下さい.
□感染のあらゆる徴候(熱感,皮膚の赤み,痛み,圧痛)を見落とさないようにして下さい.このような徴候があれば,病院を受診するか,近くの医院を受診して下さい.おそらく抗生物質の点滴/内服を指示されることになります.
ジョ-ジ ワシントン大学のパンフレットを参照
Roses/Breast Cancer 1999,Churchill Livingstone
p.628 Rehabilitation and Nursing Care
リンパ浮腫発症後のケア
リンパ浮腫は臥床している時は腕の挙上が最も有効です.また起きている時は,弾性スリ-ブの着用が最も有効です.また可能なら体重を落とすことが有効です.
さらに用手的なマッサ-ジ,空気コンプレッサ-による機械を用いたマッサ-ジにも効果があります.
リンパ浮腫発症時の原則
□感染(蜂窩織炎/皮膚が赤くなっている状態)を伴う場合は,抗生物質による強力な抗細菌療法が重要
□発症時には大部分が可逆的あるので,挙上やマッサ-ジ,スリ-ブ着用によって症状を改善します.長期/数カ月の経過をとると,上肢に繊維化が完成してしまい,浮腫が固定してしまいます.
次の2冊の本はリンパ浮腫の患者さんにとって非常に有用です
リンパ浮腫,知って 廣田彰男(東京専売病院)
1800円+税 芳賀書店
リンパ浮腫と生きる ジョン スワルスキー,ダイアン サケット ナンネリ-(翻訳,市川和子) 2000円+税 診断と治療社
(JR東京総合病院乳腺外来、リンパ浮腫管理マニュアルより)
3-12将来の妊娠についての不安は?
乳癌はホルモン作用で増殖することがあるので、妊娠をすることで乳がんの再発が増えるのではないかという理論的な危惧があります。しかし実際の統計上では明らかでありません(Lancet1997,350,319-22).一般論として性質の悪い乳癌は比較的早く(たとえば2年以内)再発してくるので、2年位してから妊娠するのが良いのではないかとされています(社会的な理由で)。なお治療後、妊娠を希望される場合はあらかじめ医師に伝えておいて下さい。それにより治療方針が一部変更される場合があります。
3-13治療終了後の定期検査(外来受診)のスケジュールについて教えて下さい
(このスケジュ−ルは1998年アメリカ臨床腫瘍学会ガイドラインに沿った方針です)
■手術後3年まで;3ヶ月に1回の外来受診
■手術後3年−5年まで:6ヶ月に1回の外来受診
■手術後5年以降(少なくとも15年まで,);年1回の外来受診
★参考資料;遠隔再発の早期発見を目的に乳癌術後患者に定期的検査をおこなうことの有用性は証明されていない。
50歳以上の女性に乳癌検診をおこない乳癌を早期発見することで、乳癌死亡率が20−30%減少することが、これまでの臨床試験の結果証明されている。同じように遠隔再発を早期に発見することで、延命効果があると直感的に思われ、術後定期的検査が慣習的におこなわれているが、その有効性は証明されていない。乳癌が遠隔再発した場合には、ほぼ治癒しないというのが現在の認識である。そのため、再発の早期発見により症状発現前に治療を開始することで、症状発現後に治療を行うよりも延命効果が得られるか、患者の生活の質(Quality of Life)が改善しなければ検査は無意味なものとなる。
延命効果がなければ、患者は再発発見による精神的負担、治療による副作用を早い時期から課せられるだけとなる。検査により再発が否定されることが、患者にとって精神的サポートになるという意見があるが、検査の正確性には限界があり、偽陽性(本当は転移ではないのに検査で転移とされる)結果がでた場合には、精査のため余分な検査が必要となり、かえって精神的な負担ともなりかねない。定期検査を行わなくても、臨床症状により発見される再発が多く、無症状のうちに再発が発見されてもほとんど延命につながらないこと、検査(例えば骨シンチ)によっては偽陽性が多いことなどから、検査は臨床的に再発が疑われるときに限定すべきだとする意見が多い。骨シンチで異常が認められた時に、それが本当の転移である可能性は約10%というデータがある。
採血でわかる腫瘍マーカーは、術後の再発に対する治療の反応をみるのに役立つとされるが、乳癌の術後follow-upに対する有用性は否定的である。乳癌術後定期検査の意義を調べた無作為化比較臨床試験は、今まで二つイタリアでおこなわれている。(JAMA 271:1587,1593;1994) Florenceの試験では乳癌術後の患者1243例を定期検査群とコントロール群に分け、定期検査群では半年毎に胸部レントゲン撮影と骨シンチを施行し、コントロール群では臨床的に再発が疑われたときにのみ検査を施行した。全例を5年以上経過観察した結果、定期検査群では胸部再発と骨再発が多くみつかったが、早期発見にも関わらず5年生存率に両群で差はなかった。GIVIO(Interdisciplinary Group for Cancer Care Evaluation)の試験では1320例を定期検査群では骨シンチ、胸部レントゲン撮影、肝臓超音波、血液検査を定期的におこない、コントロール群では、やはり再発が疑われたときにのみ検査を実施した。71ヶ月の観察期間でやはり両群で生存率の差はなく、生活の質(QOL)の点からも両群に差はなかった。以上より術後の定期検査の必要性を否定している。実際の臨床の場では、術後の定期的な検査が、当然のようにおこなわれていることが多い。遠隔再発も早期に発見すれば治癒させることが可能だと医師が直感的に感じているからだ。
しかし、残念だが乳癌の遠隔転移は基本的には治癒しないと考えられている。(10年生存率約4%)また2つの大規模比較臨床試験でも遠隔再発の早期発見の意義は否定的である。骨シンチで異常がみつかった場合、偽陽性にも関わらず、再発と考えられ照射や抗癌剤治療が始めらる危惧もある。また再発治療における抗癌剤治療の延命効果に関しても、はっきりとその有用性はわかっていない。再発が早くみつかったために、徒に抗癌剤投与を受ける期間が延びるだけのこともありうる。患者のQOL、医療費の点からも、乳癌術後患者全員に定期的検査を施行することは再考する必要がある。早期発見によるメリットがあるのは、局所再発、対側乳癌であるとの観点にたった定期的な診察をおこなうとともに、精神的サポートをすることが重要と考えられる。
【外来受診の際,行うこと】
◆局所再発の検査
局所再発(治療を受けた側の乳房内再発,胸壁再発,所属リンパ節再発)がないかどうか,触診,エコ−検査を行います.また年齢により1-2年毎に乳房のレントゲン検査を行います.こうした検査を繰り返すことで,少なくとも局所コントロ−ルが向上すると考えられています.
◆対側の乳房の検査
一般に乳がんになった方は,対側も乳がんになる確率が,普通の人より高いことが確認されています.このため局所再発の検査のついでに対側の検査も行います.(こうした検査は対側の乳がん死亡率を30%低下させると考えられています.)
◆一般的な症状の確認
問診により,乳がんの再発あるいは治療の後遺症を思わせる症状がないかどうか確認をします.
◆遠隔再発の検査
症状のない遠隔再発の早期発見は延命等の効果はあまりないと考えられています.リ−ドタイムなどのバイアスによりしばしば効果があると思われやすいのですが,これまでに行われた臨床試験の結果,遠隔再発の早期発見は無効だろうと考えられています.このため症状のない乳がん患者さんへの定期的な遠隔再発の発見を目的とした検査(CT, 肝臓エコ−,骨シンチ,MRI,胸部レントゲン,血液検査)は勧められないというのが現在の国際的な標準意見です.このことは術前検査にも反映され、初回手術時にもCT,骨シンチ,MRI等の検査は、進行例や痛みなどの症状がある場合を除いては行いません。ただ現実にはこのような再発の定期検査を希望される人が多く、また社会的な配慮から、腹部エコー、胸部レントゲン、血液検査はある程度の頻度で行っています(実施にはあくまで御本人の意思を尊重しています)。
◆実際にはこうした外来での検査より患者さんの自己検診の方がむしろ有効と考えられています.月1回の局所と対側乳房の自己検診をお勧めします.また全身再発を疑うような異常(増悪する腰痛,背部痛,下肢の脱力,息切れ,激しい頭痛など)が感じられた場合は,すぐに外来受診をしてください.必要に応じ再発の検索を至急行い,患者さんの臨床的な問題の早期解決を図りたいと思います.